ザンスカール山脈縦横断トレッキング
ザンスカール？
恥ずかしいことであるが、映画「幸せの経済学」と、NHK テレビのザンスカール川の厳冬期の氷の回廊
の放映を観るまでこの地を知らなかった。後日、O.フェルミ「凍れる河」を読み関心がさらに高まった。
地図でインド北西部を開くと、ヒマラヤ山脈が西で終わり、カラコルム山脈が東から始まろうとするところ
をインダス河源流が北西に流れている。そのインダス河とヒマラヤ山脈の間にザンスカール山脈が平行
に走っている。本会の HP 活動記録>海外山行に報告されている 2006 年、2007 年のトレッキングの拠
点マナリーの北になる。
地政学的には、東は中国、西はパキスタンとの国境が暫定であり、このため外国人の入域は 1974 年
まで禁止されて、現在でも国境方面に旅行するには許可証が必要である。A会員は開放時にこの地を旅
行しており、当時の貴重な報文を読ましていただき、B会員にはイザべラ・バードの探検記「チベット人の
中で」を紹介いただいた。シリウスの皆さん、幅が広い。さらに、2006 年のトレッキング・メンバーのC会員
が一緒することになり、心強く、愉しみも倍加した。
コースと日程
Neo‐Ladakh(後述)の勧めもあり、7月中旬としたが、これは成功であった。第1日に、今回の拠点とした
Stok を車で発ち、Leh〜Kargil 間の北西に幹線道路を走り、途中南下し、いくつかの峠を越え、
Photoskar(標高4200m、以下、4200 と略記する)に入る。
第 2 日から第 7 日まではザンスカール山脈を南下する。東と北から入り、西と南に抜けるので、タイト
ルに縦横断と記している。毎日峠を越えるが、SenggeLa Pass(5000)、HanumaLa Pass(4720)等高く、急
である。第 7 日にザンスカール川の架橋中の橋を渡り、自動車道に出て、歩きは終わる。
第 8 日はヒマラヤ山脈を眺めながら北上し、9 日目に Stok に戻り、ザンスカール山脈北部一周のトレッ
キングとドライヴィングが終わる。
隊の編成
カワカブ会で講演を聴いた池田悦子さん夫妻が経営する Neo‐Ladakh に、高齢者を受け入れてくれる
かどうか打診したところ、快諾いただいた。ありがたいことである。
隊は、経営者のワンボさん(日本語が私より上手い)が加わり、ガイド、コック、ヘルパー、馬方と馬 5 頭
(仔馬が母馬についてきたので 6 頭)から成る。
3食・寝付きで、雨具・水筒・渡渉用のサンダルをザックに入れ、ガイドについて歩き、キャンプサイトに
着くとお茶を飲みながら悠然と山を見る、極めて贅沢な山行である。
ザンスカール山脈の山容は多様であり、トレッキングでなければ味わえない
悠然とした山容、高い山・峠と深く鋭く切れ落ちる谷、奇観の岩峰と岩壁、点在する大麦畑が織り成す
景観は、世界有数のものではないだろうか。加えて峠を登り降りし、路を回り込むごとに突然に新たな景
観が展けるのは、トレッキングでなければ味わえないものである。また、日本では鎖場となるような急な
降リがほぼ毎日あり、緊張させられた。 （↓）
悠然とした山容が連なる
深く切れ落ちる谷と奇岩、峠 急な下り道
点在する大麦畑
誰がどのようにして村を拓いたのであろう
この細い、しかし深い谷(009)の向こうに峠があり、厳しい尾根(010)を越えて、その痩せた ParfiLa
Pass(3950))に立ち、この斜面が人間の生存基盤となり得ると誰が考えたのだろうか。不思議である。
また、社会に通じる道路までは危険な山道を数日も歩かねばならないところに現在でも住み続けてい
る。「凍れる河」の世界はまだ在る。
深い谷の向こうに峠があり・・ 厳しい尾根を越えると・・
ParfiLa Pass ParfiLa Pass を越えた斜面にも人間の生存基盤が・・
狼が仔馬を襲う
条件に恵まれない土地に遠くから融雪水を水路で運び、大麦を育てている。それ以外の不毛に近い土
地にまばらに育つ草を求めて、ヤギ、ヤク、馬が放牧されている。この外に野生の鹿、アイベックスが生存
し、この頂点に雪豹や狼がいる。村を出たところに狼の罠が造られていた。死んだヤギをここに投げ込み、
狼を誘い込むという説明は現実のものとは考えなかった。
死んだ山羊を投げ込んだ狼の罠
馬方はキャンプサイトに着くと、馬を放し、自由に草を求めさせ、朝早く馬を集める。先の仔馬が朝戻らず、
母馬も傷ついていた。狼が襲うというのは現実のものであった。
体調が良く、歩き通すことができた
出発 1ヶ月前から医師の指示で食生活の改善に取り組み始めた。例えば油で揚げた・炒めた料理は駄
目、砂糖・牛乳・乳製品は駄目、小麦食も駄目と厳しく、体調が維持できるかどうか心配した。ワンボ夫妻
に特別の配慮をいただいたおかげで、ほとんどのものを、それもCさんより多く、いただくことができた。
高度順化については近年劣化が進行していたが、この低下傾向を反転させただけでなく、これまでにな
く順調であった。
当初は、初めてのトレッキング体験でもあり、SenggeLa Pass まで行けないのではないかと心配したが、
ガイドのソーナムさんやCさんに遅れることなく歩き通しザンスカール川に達することができた。
歩き通して達することができたザンスカール川
（シリウス・ジャーナル 52号 2017.9.10)
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