今、山へ＞ピレネー＞3 印象


３　印象

（１）彷徨でなく大名旅行

　具体的な予定表も作るることができず、宿泊の予約もなく、公共交通の状況も把握せず、
3つの山と1つの峠を希望的な目標として、スペイン・ピレネー彷徨を企画した。

結果は、アコンカグアのコンフルエンシア、コロンビア小屋跡、ベースキャンプで
テントを隣り合わせたスペイン・バスクの青年Javierが前半を同行し、彼の車で走り、
彼の飛び込むホテルに泊まり、同じくレストランで食べ、後半も実質的には彼が手配した。

　ピレネー山脈は谷が深く、奥では相互に通じておらず、平野部に向けて下り、
1500m程度の峠を越えなければ、隣の谷に行くことができない。
公共交通を利用するとなると、不便なバス便で平野部の都市まで下り、次の都市へ移動し、
そこからまた不便なバス便を利用することとなる。車と運転技術は相当に重要である。

　ピレネーでは英語は通じないので、片言でもスペイン語が必須と教えられ、
付け刃でA,B,C・・、１，２，３・・を覚えたが、これではほとんど役に立たない。
　これらに加えJavierには、地元事情に通じ、登山経験があり、さらに細かい気配りがある。

　当初覚悟していた失敗覚悟の彷徨ではなく、彼におんぶにだっこの大名旅行であった。

（２）時期

　6月下旬から7月中旬を選んだのは正解であった。

　まず、シーズン前で混んでいない。
PosetsとMonte Perdidoでは山小屋が満員で宿泊できなかったり、
Monte Perdidoでは予定したバスが運行前であったが、すべて代替策があった。
ホテルは飛び込みでも宿泊でき、多分料金も安かったのではないだろうか。

　次に山が美しい。ピレネーはアルプスと異なり氷河がすでになくなっているので、
残雪の白は新緑の放牧地や森、高山植物の多彩な花、輝く岩肌とのコントラスに不可欠である。

　天気のことは判らない。Anetoでは2日間待ち、PosetとMonte Perdidoでは雨具を着けたが、
長雨でなく、しばらくすると晴れ、乾きも早く、障害にはならなかった。

（３）登山コースと装備

　基本的には難コースを避け、一般コースとした。

　トレッキングコースには立派な案内板があるが、登山コースにはケルンがところどころあるくらいで、
プロテクション、鎖、ペンキ印は見なかった。ガイドブックは、例えば上高地から奥穂高のコースを
10行くらいの文章で説明する程度であるが、
登山コースについては,Gradoと登攀技術ランクを示すEscaladaが明示されている。

登山届けの仕組みは無い。要は国立公園事務所のパンフレットにある次の文
　Your safety is our concern、but it is your responsibility.　
ということではないか。

　露営は一部区域を除き基本的には許されている。
　また、1日限り、夜8時から朝8時までに限ると言われ、
書き物も読んだが、必ずしも守られていないようである。

　装備は，夏の露営縦走装備に
上下の冬下着、ピッケル、アイゼン、ハーネス、8mm・30mロープを加えた。
Anetoでガイドから耳当て、羽毛服を求められたが、結果として必要としなかった。
燃料ガスは都市のDIY店で購入してきたが、いずれの登山口にも立派な用具店があった。

　食糧は、お茶と葛湯以外は登山口のスーパーで購入し、不便しなかった。

（４）日本人に会わなかった。

　山での2週間、旅行での1週間、日本人に会わなかった。南極でも、モンゴルでも、
アフリカの小国でも誰かに会う時代に、
特にトレドの人口の半分は日本人と言われるくらい日本人客の多いスペインで、
不思議なことである。

　まだ訪ねたことはないアルプスとは大違いではないか。
氷河はほとんど無いが、日本人の好む風景は多いと思う。
人の行くところに行きたがる国民にとってはまだ情報過疎地域なのであろう。

J．ダイアモンドは世界の文明をリードしてきた中国が西欧に遅れをとった要因の1つに
地勢を挙げている。
同一国でも地域性が顕著であり、それぞれが競合し、多様な文化を育てた。
地勢の代表は山脈であり、西欧ではアルプスとピレネーである。
またピレネーは西欧をアラブから守り、
フランスとスペインをまたぐバスクは他と異なる文化・言葉を守っている。

日本で有名なフランシスコ・ザビエルはバスク人で、
ピレネーの帰途に生家のハビエル城も訪ねた。

　日本人がピレネーに関心が低いことも不思議である。

（５）ピレネーのほんの一部に触れたに過ぎない

　山から見るピレネーは広く、深く、大きい。今回はその、ほんの一部に触れたに過ぎない。
山の魅力も山歩きだけでなく、クライミング、洞窟探検、沢、ラフティング、スキー等多彩である。

　天候も良く,El Lado de Solと謳われているように高地の陽射しは心地良い。
また気取らないレストランの料理や酒は美味しく、安心して愉しめる価格でもある。

　残された時間は少ないが、もう一度訪ね、もう一つのピレネーの魅力に遇いたい。